夢幻能『オセロー』 衣裳デザインコンセプト
- Kayo Takahashi
- 6月7日
- 読了時間: 3分

ミヤギ能『オセロー ~夢幻の愛~』
演出:宮城聰
原作:ウィリアム・シェイクスピア(小田島雄志訳による)
謡曲台本:平川祐弘
2026年6月、ベネチアビエンナーレ舞台部門のオープニング作品として、この作品が上演されることとなりました。衣裳デザインを担当させていただいた者として、大変光栄に感じています。
これまで多くのお客様から衣裳コンセプトについてご質問をいただいてきましたので、この場を借りてデザインの背景を記しておきたいと思います。
まず、夢幻能『オセロー』では、身体の動きを担う役者と、言葉を語る役者の二人で一つの役を表現するという独特の手法が用いられています。この手法によって、通常の演劇では味わうことのできない大胆さと繊細さが同時に立ち上がり、私自身も衣裳デザイナーとして多くのことを学ばせていただきました。
この作品において、私の心を最も強く捉えたのは、平川祐弘先生による謡曲台本の美しい響きと、それを魂の音楽のように扱う地謡の皆さんの存在でした。
初演当時、私はオセローの衣裳デザインに行き詰まっていました。
東京国立博物館の仮設舞台という特別な場所での上演に、どこか気負いすぎていたのかもしれません。
そんな中で舞台稽古を観ていた時、地謡の声が身体に染み渡る感覚を覚えました。難しい古い日本語であるにもかかわらず、不思議と面白く感じられる。そして公演が終わった後も、その謡曲の響きは数日間私の中に残り続けました。
その時、自分が本当に集中すべきなのは、この作品の「音」なのではないかと気づいたのです。
その後、再演にあたり衣裳を作り直す機会をいただきました。
私には、この作品は視覚よりも聴覚のエネルギーが非常に強い作品に感じられました。そこで、耳に残る謡曲の美しさを、視覚の側から支えることを今回の衣裳デザインの目標としました。
最初に思い描いたのは、「残響」でした。
舞台が終わった後も漂い続ける声や言葉。その見えない余韻を存分に楽しんで頂くために、衣裳としてできることは何だろうかと考えたのです。
再演では地謡のキャスティングが変わり、作品全体の印象も初演とは異なるものになりました。その変化を受けて、私は視覚面にさらに強いエネルギーが必要だと感じるようになりました。
そこで最終段階で、衣裳に大胆なひらがなの立体モチーフを加えました。
私は常に、作品の中で衣裳がどの位置に立つべきかを考えています。衣裳が強すぎれば言葉の魅力を損なってしまうかもしれませんし、弱すぎれば舞台全体の力が不足してしまうかもしれません。
動きを担う役者の身体を活かすことはもちろんですが、言葉を担う役者のエネルギーとどのようにバランスを取っていくかも、衣裳にとって非常に重要な要素です。
舞台を漂う美しい謡曲の残響。その響きを引き立て、お客様の記憶の中に少しでも長く留めるための存在となれるよう、私はこの衣裳をデザインしました。
デズデモーナは、薄い絹のオーガンジーを何枚も重ねた衣裳をまとっています。その姿は、どこか能装束を思わせる形をしています。
一枚一枚のオーガンジーには謡曲の言葉が書かれています。
文字は、重なり合ったり、奥行きを持ったり、光を受けて透け、揺れ続けます。
その様子は、孤独だった彼女の魂の中に溢れていた言葉にならない想いのように、今の私には見えています。
今回の衣裳デザインのために、美しい書を書いてくださった深沢襟さんに、心より感謝申し上げます。
また、その書をステンシルという技法によって一枚一枚丁寧に型へ起こし、布へと染め上げてくださったSPAC衣裳部の皆さまの根気強いクリエイションにも、深く感謝いたします。
残響のように舞台を漂う言葉たちが、衣裳の上でも静かに揺れ続け、お客様の心のどこかに長く残ってくれることを願っています。



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